心不全の増悪を見逃さないためにーうっ血と低灌流ー
心不全患者の観察のポイント
今回は、心不全の増悪を見逃さないためにと題して、心不全患者のフィジカルアセスメントのポイントを、順序立てて紹介していきます。
- 「うっ血」と「低灌流」
- <座位で頸静脈怒張の確認>
- <同時に呼吸補助筋の確認>
- <呼吸音で水泡音、胸水があるか>
- <心音でⅢ音が聞こえるか>
- <右季肋部で肝臓の張りがあるか>
- <下腿で浮腫を認めるか>
- <起座呼吸の有無>
- <小さい脈圧>
- <四肢冷感>
- <傾眠>
- <低Na血症>
- <腎機能悪化(尿量低下)>
まず、はじめに心不全の徴候は大きく分けて
「うっ血」と「低灌流」
の二つに分けられます。
うっ血は、血液が渋滞している状態で、低灌流は、血液が全身に行き渡らない状態のこと指します。
特に急性期の医療機関で働くコメディカルは、心不全の増悪には特に注意を払い、介入していく必要があります。心不全の増悪を見逃さないためには、確認する所見をルーチン化しておくことがオススメです。
ただ、個人差はありますので、各個人、疾患の個別性や特性を理解した上で行うことが重要です。先ほども述べたように、急性期では基本的に心不全の状態は、日々刻々と変化します。そのため、特に命に関わるような増悪所見に関してはルーチン化して確認しておくことは、悪いことではありません。
特にリハビリテーションセラピストの場合は、多少なり身体的なストレスをかけていくことが多いです。そのため、これらを知っておくことは有用と考えます。
それでは、まずこちらのツイートをご覧ください。
うっ血所見は上から順番に徴候を確認✍️
— Hiro Maeda@理学療法士 (@maehiro210) September 9, 2019
✅座位で頸静脈怒張の確認
✅同時に呼吸補助筋の確認
✅呼吸音で水泡音、胸水があるか
✅心音でⅢ音が聞こえるか
✅右季肋部で肝臓の張りがあるか
✅下腿で浮腫を認めるか
✅起座呼吸の有無
リハビリ時にはこれらの徴候を見逃さないように注意。
うっ血所見について
うっ血所見は、上から順番に確認しておくと分かりやすく、症状も掴みやすいように感じています。私も普段の臨床では、この順序で確かめるようにしています。
それでは、何故これらの所見が重要になってくるのか、いずれも代表的な心不全の所見ではありますが、確認の意味で一つずつ解説していきます。今回は、詳細な測定方法については、あえて書きませんので悪しからず。
<座位で頸静脈怒張の確認>
言わずと知れた、頸静脈怒張です。よく頚動脈と間違えることもあるので気をつけましょう。正常の方であっても仰向けの状態であれば、軽度の怒張を認めます。しかし心不全者においては、ベッド上のヘッドアップ姿勢30−40度程度でも怒張を認めます。少し注意してみれば確認できますのでさらっと確認しておきましょう。少し深掘りすると、頸静脈の怒張の程度によっても状態が変わってきます。それに関して、今年の心臓リハビリテーション学会でポケット・フィジカルというWebアプリが紹介されていましたのでぜひご確認ください。
<同時に呼吸補助筋の確認>
次に、同時のタイミングで呼吸補助筋を確認します。心不全が増悪している場合、肺うっ血により呼吸困難が生じている可能性が高いです。そのため、僧帽筋や斜角筋、胸鎖乳突筋などの呼吸補助筋を確認します。視診で過活動を確認しても良いですし、触診して実際に硬さや圧痛を確認できるとより良いと思います。
<呼吸音で水泡音、胸水があるか>
前述した通り、肺うっ血が生じている場合、肺野全体に水泡音が聴取されます。また肺うっ血により胸水が貯留している可能性が高いので、聴診や打診などを用いて評価していきます。胸水が貯留していると、下葉で呼吸音の減弱や消失などが分かりやすく聴取できます。
<心音でⅢ音が聞こえるか>
Ⅲ音(心室充満音)は心尖部で聴取されます。心尖部の位置は、左胸部第5肋間と、鎖骨中線の垂線の交点です。成人では、うっ血性心不全、拡張型心筋症などで左室拡張期圧が上昇し、左室内腔の拡大によって発生します。心音の聴診は、私もそんなに得意ではありませんので、経験あるのみです。頑張りましょう。
<右季肋部で肝臓の張りがあるか>
肝臓には、心拍出量の約4分の1に相当する血液が供給されているため、心不全ではその影響を大きく受けます。心不全増悪時には、肝臓のうっ血も急速に進み、それに伴い肝被膜が急速に伸展するため、右季肋部に張りが生じたり、痛みを生じることもあります。特に急性心不全で最初の介入では確認しておいたほうが良いポイントになります。
<下腿で浮腫を認めるか>
うっ血肝の影響も合間って、血液の渋滞が起こるため下腿に浮腫を認めます。浮腫の種類によってある程度、症状が推測可能な場合があります。心不全増悪の場合、塩分過多が原因となっていることが少なくありません。その場合、浮腫は圧痕なかなか戻ってきません。反対に、圧痕の戻りが早い場合は低アルブミン血症が疑われます。あくまでも推測になりますが、浮腫もただ圧迫するだけではなく、詳しく見ていけると良いですね。
<起座呼吸の有無>
起座呼吸に関しては、初めに確認しても良いかもしれません。どちらにせよ起座呼吸が生じている場合は、心不全が増悪している可能性が非常に高くなりますので、積極的な運動療法は避けたほうが良いでしょう。余談になりますが、いつも学生に胸水貯留による呼吸困難を説明するときには、水の半分入ったペットボトルを使用しています。
「水に浸かった部分は呼吸に関与しにくくなる。上中葉に比べて、下葉は大きいから寝てるほうが苦しくて、起きたほうが楽になるよね。」
といった感じで伝えています。これだと何となく理解してくれる印象です。
それでは次に低灌流所見について見ていきましょう。以下のツイートをご覧ください。
低灌流所見は、以下の5つをチェック
— Hiro Maeda@理学療法士 (@maehiro210) September 9, 2019
✅小さい脈圧
〔(収縮期血圧-拡張期血圧)/収縮期血圧<25%〕
✅四肢冷感
✅傾眠※
✅低Na血症
✅腎機能悪化(尿量低下)
見落としやすいのが日中の眠気、集中力の低下。これは脳低灌流の状態を反映している可能性があるため注意。
低灌流所見
低灌流所見の徴候は、5つのポイントに絞って見ていくようにしています。ここまで聞いて誤解していただきたくないのですが、これはあくまで参考で、順番通りに行う必要は全くありません。実際に患者さんの評価を行っていく上でオリジナルの最適解を見つけていく参考とになれば幸いです。
<小さい脈圧>
まず脈圧とは「収縮期血圧-拡張期血圧の値」のことです。
脈圧の基準値は30~50㎜Hg未満と言われています。脈圧が大きい場合には血管の弾性低下が考えられます。逆に、脈圧が小さく拡張期血圧が高い場合は、末梢血管の抵抗が強くなっていることが考えられます。低灌流の場合、血圧を維持しようと抹消血管抵抗が上がりますので、脈圧は低下します。
<四肢冷感>
一般的には四肢抹消の冷感と言われます。もちろんそうなのですが、もともと手足が冷たい冷え性の方がおられ、冷感が分かりづらいことがあります。普段から患者特性を理解していればいいのですが、なかなか難しいですよね。抹消だけではなく、前腕や足首、前脛部も冷感を感じることが出来る部位なので、合わせて確認しておくと良いかもしれません。私は、普段からほぼ前例に、前腕と下腿の周径を評価していますので、その際に普段の様子を確認し、念のために抹消だけではなく、前腕や下腿も両方触って確認しておくようにしています。
<傾眠>
意外と見落としやすいのが日中の眠気と集中力の低下です。これは脳低灌流の状態を反映している可能性があるため注意が必要です。これに気づくには普段から患者さんの様子を注意深く観察しておくことが重要になってきます。しかし毎日のように全ての所見を確認するのは難しいです。そのため、ある程度ポイントを絞っていくと変化も見逃しにくくなるのではないかと考えています。
<低Na血症>
様々な原因で起こりますが、細胞胞外液量が増加しているタイプは、体内総Na量の増加より体内総水分量の増加のほうが上回っている状態で心不全や腎不全などの浮腫をきたす疾患でみられます。所見ももちろん大事ですが、血液検査も合わせて確認しておくと良いですね。
<腎機能悪化(尿量低下)>
急性心不全の場合、尿量管理のためにバルーンカテーテルが留意していることがほとんどだと思います。電子カルテなどで総量だけを確認するのではなく、尿量が低下して色が濃くなっていないか、利尿剤の効果は出ているかなど、実際に目で確認しておくことも非常に重量なのではないかと思います。
最後に
長々と書いてきましたが、以上が心不全の増悪を見逃さないためのポイントになります。うっ血と低灌流で分けておくとポイントが絞りやすく、症状にも繋げやすいのではないかと考えます。
特に私は急性期の病院に勤務しており、日々症状が変化する心不全急性増悪の患者さんを見ています。そのため、これらの評価を行うことでリスク管理を行っています。
個人的に
「リスク管理は引き出しの多さがモノを言う。」と思っています。
つまり、何が起きるか常に予測し、患者の変化に一番早く気づくことが重要ということです。急変時にどう動けるかということは、もちろん大事なのですが、それよりもリスクを予測できる能力が必須であると感じています。
これは、職種関係なく身につけていくべきことだと思います。
今回の記事は、リスクを回避するために最低限知っておくべき知識のスタートラインとして活用していただけたら幸いです。最後まで見ていただきありがとうございました。